7. 茨城県つくば市上郷「森口農園」

森口雅也さん(枝豆農家)が感じる学校で農業を学ぶ利点と農業のやりがい

色んな場所や職業を巡り、つくば市で就農することに決めた森口さん。森口さんが感じる農業経営の魅力とこれまでの経験を聞かせてもらいました! (聞き手/取材班・横井沙衣子)

人物紹介

森口もりぐち雅也まさやさん(森口農園経営者)

大学卒業後、数年働いた仕事を辞めて日本一周バイク旅。たどり着いたのは北海道。自然に触れて生活しながら新規就農への決意を固め、当時つくば市にあった農業者大学校に入学する。そこで2年間農業について学び、つくば市の石田農園で1年間の研修の後、2011年に独立した。北海道で出会った友人と協力しながら、現在もより良い農業と経営を探求し続けている。

取材班

まず農業を始めるまでの経緯をお聞きしたいのですが、バイク旅をされていたそうですね?

森口さん

はい、大学を出たあとパチンコ屋で正社員として働いていましたが、辞めて、以前からやってみたかったバイクで日本一周の旅を始めました。ぐるっと回ってみて、最終的に北海道で水産物の加工をする仕事に就きました。この仕事は季節限定のアルバイトなので、仕事がない時は、スキー場や地元でアルバイトをするという形で3〜4年過ごしていました。

取材班

そのまま漁業や他の職業に進む道もあったと思うのですが、農業を選んだ理由はありますか?

森口さん

自然に近い仕事や田舎での暮らしが好きだったので、第一次産業で働きたいことと、これまでの経験から、自分は自由に発想して自由に選択したいという性格だとわかったので、独立することを決めていました。水産加工の仕事は面白かったですが、漁業で独立するには必要な資金の額が桁違いに多いんです。林業はなんとなく違うかなと思ったので、必然的に農業になりました(笑)

取材班

そうなんですね。では、就農に向けてどのような準備をされたんですか?

森口さん

ハローワークで農業者大学校を紹介してもらい、2年間通いました。そこでは座学を中心に学び、学校に入学する前の1ヶ月間と7〜10月の4カ月間に農業研修に行きました。4カ月間であればどこに行っても良かったので、みんな色んなところに行って、学生同士で聞いてきた情報を共有してましたね。

取材班

情報共有がしやすいのは学校ならではですね。でも授業自体は座学が中心だったんですね。

森口さん

はい、新規就農を目指す身としては畑での作業が少ないことに不安を感じていましたが、今振り返ればその方が良かったなと思います。農作業の技術的な部分は農家に本格的な研修に行けばスッと身につきます。また、作るものによって技術も経営体系も全然違ってくるので、就農する時、ものすごくたくさんある選択肢の中から選ばないといけません。そのためには情報がないと選べないですよね。そういう意味でも学校で座学中心に色んな情報を得られたのは良かったと感じています。

取材班

授業で学びながら自分でやってみたいものを決めて、実際に農家の研修で体験してみるという感じだったんですね。

森口さん

そうですね。研修で実際見てみたらイメージと違うこともありました。例えば酪農の研修に行ったんですが、牛が中心の生活になって僕が好きな旅行とかにあまり行けなさそうだと感じて、これは辞めとこうと思いました(笑)また授業がとても良くて、今の僕が当時の授業をもう一度受けたいと思ってるくらいです。だから学校に行って損したという気は全然無いかな。

取材班

農業は状況によって臨機応変にやり方を変えないといけないので、学校で農業を学んでも意味がないという話を農家の方から聞いたことがあります。しかし森口さんの話を聞いていると、農業者大学校に行って良かったという思いが伝わってきますね。学校で農業を学ぶ利点は何だと思いますか?

森口さん

実際に就農してみると、作りたい野菜と借りた畑の相性が合わなかったり、地域によって売り方が限定されたりと、色んなことが起こります。でも、僕は学生の時に色んな農家の売り方や作り方を調べて、役に立つ立たない関係なくどんどん情報を仕入れていたので、就農した時にそこから必要なものを選べたのが良かったです。また、農家のやり方はそれぞれ本当に違うし、新規就農との環境も違います。教わったことを全く同じようにやっても状況次第でうまくいかないことがよくあります。他の人からのアドバイスに対してそれが自分にとって必要かどうかを選択し、状況に応じて発想ややり方を転換することが大切です。臨機応変に動く、当時の僕にその力が備わっていたとしたら学校に通っていたからだと感じます。

取材班

学校に通いながら森口さんの土台が築かれていったんですね。

森口さん

農業は人によってやり方が違うから色んな人の話を聞きすぎると一貫性が無くなってしまいます。だから、農業の技術的な面は1人の師匠から学んで、あとは自分で応用していく。新規就農者は0から1を作るからこそ、発想は自由な方が良いのかなと思います。

取材班

森口さんのご出身は大阪だと伺いましたが、農業を始めるにあたってつくば市を選んだ理由はありますか?

森口さん

長野県での農業研修先で出会った市場関係者の人には、就農するなら大きな市場や農協にちゃんと所属した方が良いと言われました。一方つくばを見ると農協出荷や市場出荷だけではない販売をしている農業法人や農家がすごく活躍してるんです。それで、東京近郊と地方ではやり方が違うことに気づきました。そこで、大産地に所属した自分と東京近郊で自由に農業をしている自分を想像してみて、自分の性格的に自由にやれる方が良いなと思って、つくば市に決めました。

取材班

作業は1人でされてるんですか?

森口さん

年間を通して1人雇っていて、枝豆シーズンだけパートさんを2〜3人雇っています。枝豆は短期の出荷なので、シーズンが終わったら1度辞めてもらっています。でも1年通して働けるように冬場の仕事を開拓しようと思っています。冬野菜の規模を増やせれば枝豆も規模拡大できる思うので、今はそのために準備中です。

取材班

規模を拡大して、法人化も考えられているんですか?

森口さん

理想は僕は見ているだけで、みんなが作業している環境をつくりたいとは思っています。最近は、「どういう雇い方をしたら、ここで働いて良かったと思ってもらえる環境を作れるのか」っていうことを考えています。まずは年間通して人を雇えるようにすることが課題ですかね。

取材班

新規就農をするときに何か行政の補助金制度は使いましたか?

森口さん

当時は研修先の農家に補助金が出るニューファーマー制度を使って研修先に入りました。独立するときは農協が窓口になっている融資を利用しました。就農給付金は就農して2〜3年目くらいから始まったので後から使いました。

取材班

就農当時はまだ、現在のような新規就農者向けの補助金制度がなかったんですね。

森口さん

あと制度ではありませんが、北海道の水産加工の仕事で出会った松田も一緒につくばで就農したので、協力しながらやってます。経営体としては別ですが、同じ作物をやるときは一緒に試行錯誤したり、農業機械を一緒に買ったりしてます。それもあってほぼ借金なしでここまでやって来れたので、その点では1人でやっている他の新規就農者とは違うのかなと思います。

取材班

協力してやれるのはとても良いですね!

取材班

売り先はどのように見つけていったのですか?

森口さん

農業者大学校の先生から土壌微生物を研究している先生を紹介してもらい、さらにその先生から木酢の会社が木酢を栽培に利用した野菜の販売をやりたいと言っている話を聞きました。僕がその手伝いをしたら会社の方がすごく喜んでくれて、バイヤーを紹介してくれました。そのバイヤーから新宿小田急百貨店に出荷することに繋がりました。

取材班

そういう風に繋がっていくことがあるんですね!

森口さん

そうなんですよ。僕はあまり多くの付き合いを持ちたいと思う方ではないんですけど、就農したばかりのころは色んな集まりに参加して、意図的に繋がりを作るようにしてました。さっきみたいに偶然うまく繋がって売り先が決まっていったこともあれば、失敗したこともいっぱいありますけどね(笑)

取材班

ネット販売はしてるんですか?

森口さん

ネット販売もやったことはあるけど、生産者と個人の付き合いが中心になるから、1人の消費者に対してマメに返せる性格の人や経営体じゃないと難しいかなと感じて、今はやってないです。あと、スーパーとかは出荷前の打ち合わせで収穫期間中はなるべく買おうとしてくれるんですけど、ネット販売だと一番良い時しか買ってもらえなかったので、ネット販売はちょっと合わないかなと思いました。ただ、販売の仕方も人によってやるべきものが違うと思います。スーパーとの取引になると直接販売に比べて単価が下がるので、出荷量が少ないと利益はほとんど出ません。それだったら、ネットや直売所で直接販売した方が利益が出ると思います。逆に、効率よく大量に出荷できるなら、スーパーとかにアタックしたら良い。自分の性格やどういう農業を狙っているのかによって、販売の仕方も決めたら良いと思いますよ。

取材班

森口さんがやりたい農業や軸は何かありますか?

森口さん

経営面でいうと、「大きな方向性は決めるけど細かいことは決めない」っていう感じですかね。今うまくいってても、5年後も変わらずやれてるかと言ったらそうはならないと思うから、新しい挑戦もして柔軟に動けるようにしています。もちろん大前提として、良いものを作って出すという思いはあって、直売所やバイヤーの先にいるお客さんのことを想像して、どういうものを作ったら喜んでくれるかを常に考えています。

取材班

これまでたくさん挑戦されてきたと思うのですが、その中でぶつかった大きな失敗や壁はありますか?

森口さん

失敗しても、こういう方法で失敗したことがわかったから、やり方を変えてみようと捉えることが多いので、あまり思いつかないですね。ただ、農地の取得だけは自分の力だけではどうにもならなかったと思ってます。農地は新規就農者ががむしゃらに頑張っても、地元で信頼されてる人が間に入って「もしこの子が失敗しても自分がロータリーをかけるよ」っていう風にしてもらわないと難しいですね。

取材班

最初は地域で信頼されてる人と繋がりを作ることが大切なんですね。農業をやっていて感じるやりがいはありますか?

森口さん

自分がやりたいと思ったことが形になっていくのはすごく面白いと感じてます。農業を始めたからこそ、雇用や融資、規模拡大のことを考えるようになりましたし、成功は自分だけのものじゃないけど、失敗は自分だけのものっていう感じなので、やりがいある環境だなと思います。また、農業が食料供給をして経済や文化が発展していくと思うので、その点で農業をやっていることへの誇りを感じています。

取材班

最後に、ワニナルプロジェクトでは『農業×クリエイティブ』で新規就農や農業を盛り上げていきたいと考えています。森口さんは「クリエイティブ」って聞くとどんなイメージを持ちますか?

森口さん

ある農業経営者が「あなたは農業でどうやって世界を救う気ですか」との質問をされたときに、「最近は科学技術が発達してきて、砂漠で農業ができるようになったり、野菜の鮮度を落ちにくくしたりできる。だから、農業と科学で世界は救える!」って答えたらしいです。僕はクリエイティブって聞いたらこの話しか思い浮かばなかったです(笑)

森口さん貴重なお話を聞かせてくださりありがとうございました!農家という仕事や人生を心から楽しんでいるのが伝わってくる時間でした!

ファームプロダクツファイル

①作っている代表作物

●枝豆

直売所でもスーパーでも販売している、夏のメイン作物!3月に種まき、6~8月に出荷。取り頃は3~5日しかないため、単価も高くなる。味と鮮度にこだわって出荷している。

●ニンジン

研修先で教わってから今まで作り続けている冬のメイン作物!

●ミニ白菜

直売所向けの冬野菜!普通の白菜より小さいため、カットしなくても冷蔵庫に入る。甘くて柔らかいため、サラダで食べると美味しい。

●サラダカブ

見た目はB品だけど味は一級品!中に黒い病気が発生しやすいため、カットして直売所で販売している。最も美味しいのは11月中。甘味が強く、食感は柿のよう。12月には霜に当たって、リンゴのような食感に変わる。

●ネギ

実験的に栽培を始めた。農協や市場向けの野菜として考えている。

ネギ

②作るときのポイント

収穫のとき、食べごろをちょっとでも過ぎると味が落ちて売れなくなるのが難しいところ。特に、枝豆とサラダカブは味は良いけど取り頃が短く作るのが難しい。
だから、収穫のときのことをイメージして畝ごとに数日ずらして種まきを行う。しかし気温が上がると収穫時期が重なり取り切れなくなることもある…。
種まきのずらし方や取り頃の見極めは経験から生み出されるプロの技!!

サラダカブ

この記事を書いた人

横井 沙衣子 YOKOI SAEKO

茨城県内の大学に通う大学生。小学生のとき農家さんの家で食べたレタスが忘れられず、茨城で農学を学び始める。普段は原付にまたがり、田んぼや蓮田を見て癒されている。環境に優しい農業を研究しながら、「実際の農家の現状をもっと知りたい」と思い、「ワニナルプロジェクト取材班」に参加。自分たちの記事を読んで、色んな人が農業に興味を持ってもらいたいと願っている。