9. 茨城県つくば市手子生「ふしちゃんファーム」

伏田直弘さん(有機野菜)、有機農業で 「高品質・適正価格・安定供給」をやり続けられている理由

つくばの有機農業といえば必ず名前を挙げられるふしちゃんファーム。ふしちゃんファームの経営者の伏田さんてどんな人? 活躍してる農業経営者ってどんな事をされてきたんだろう? そんな視点から伏田さんにインタビューしてきました! (聞き手/取材班・吉成 香貫花)

人物紹介

伏田ふしだ直弘なおひろさん(ふしちゃんファーム経営者)

九州大学大学院で農業経営学を学び、大手飲食チェーン、金融機関を経験しつくばで農業経営へ。有機作物にこだわり、規模拡大を進めている。

取材班

インタビューさせていただくにあたって、伏田さんの経歴を見ました。伏田さんは農学部大学院卒業して大手飲食チェーンと金融機関で働いていますが、すぐに農業経営者にならなかった理由は何かあるのですか?

伏田さん

ビジネスマナーを学んどきたいなって思いがあり、卒業後すぐには農業を始めるのではなく大手飲食チェーンで働くことにしました。大手飲食チェーンにした理由は、農業展開しようとしていたから。大手飲食チェーンで農業に携わった後、次に金の借り方や経営方法を学びたいと思って金融機関で働いたんですよ。その後つくばで農業を始めましたね。

取材班

なるほど! 計画的に転職して農業経営者に至ったのですね。農業経営者になろうって思ったきっかけは何ですか?

伏田さん

高校の時ですね。受験で最初は医学部目指していたけど無理で農学部に入ることになりました。そこで「頭のいい人と戦わず楽していきたい」って思いが湧いて、農業経営者が思いついたんですよ。当時は農業の高齢化問題と、規制が多くて参入が少なく敏腕経営者もいないなって考えて。

取材班

農業=大変ってイメージがある中で、楽していきたいという思いで農業経営者を選択したの面白いですね。

取材班

大手飲食チェーンでの農業事業ではどんなことされたのですか?

伏田さん

農業事業では僕に一つの農場を任せてくれました.始めにそこの農場の把握からでしたね。とりあえず労働力と土地があることはわかったんですよ。あと売り先もあると。やったことは有機JAS(注)を調べて野菜を全部有機に変えたことです。ここから3,000万の売り上げにできたんですよ。他にも、自分たちで作ることで生産原価を理解したので、バイヤーから買うときの価格交渉で、価格単価を30円下げることができました。大量入荷するので30円は非常に大きかったですね。もう15年前になるけど、会社で歓声が沸きましたね。
(注)農林水産省からJAS法の規定内と認定されたもの。認定されると有機JASマークを貼って野菜を売ることができる。

取材班

すごい! もう農業経営者として成功しているじゃないですか!

取材班

なんで有機にこだわるのですか?

伏田さん

儲かるからですね。だって新規就農者が20年小松菜作っている人に勝てるわけないやん。JASマーク貼って最低でも売れる感じです。こだわりありますって言っても、あっちもこだわっているわけなので。
他にもJASマーク以外にGAP(注)をとっているんですけど、僕はGAPを免許証のように考えているんですよ。農業って無免許運転が多くて。無免許って違法やん。僕は農業経営者ならGAPはとらんといけんと考えていますね。
(注)日本語で農業生産工程管理。農業における働き方規定。JGAPやASIAGAPなどあり、大手スーパーなどではGAP認証されてないと取引できない場合がある。

取材班

なるほど。伏田さんは有機に注目するのが早かった印象があります。有機についてどこで勉強されたのですか?

伏田さん

これはね大手飲食チェーン時代のお話になるんですけどね。僕は26歳には農業経営者になりたいと思っていたので、それまでに農業の勉強せなあかんて思って。でも当時は先輩と一緒に寮生活をしていたので、家に帰ったら先輩がいて集中できないんですよ。だから僕は近所のラーメン屋に入り浸っていましたね。そこで買いまくったマーケティングや有機の本を読んでいました。10年前の話だけど僕の知識ベースはそこにあると思いますね。

取材班

ラーメン屋での出来事が活かされているのですね!すごい!

取材班

いざ農業始めたときに苦労した点はありましたか?

伏田さん

まず作った野菜が全滅したんですよ。7年ぶりの農業をなめていましたね。色々試して最初に出来たのが小松菜だけ。僕の場合は農業の師匠にあたる方がいなかったので、農場で何かやってみて葉が白くなってダメで~じゃあ次はみたいなことの繰り返しやったんですよ。他にも、法人農家に聞いたりセミナーに参加したり。あと病的防除に関わる農研機構の人に直談判して農場にきてもらったりしましたね。今では月2回程度ハウスを見に来てくれるようになりました。

取材班

試行錯誤を繰り返して行っていったのですね。ちなみに新規就農者の悩みの1つである販路はどうされたのですか?

伏田さん

1年目は近隣の農業法人が買ってくれて、2~3年目に会社で有機JASとったけど直売所では小松菜はもう置いてあるから邪魔だと言われて売ることができなかったですね。そこで僕は商談会に参加したんですよ。ホームページや写真を見せ方も意識してブースを出して。そこで出会って30分くらい熱弁したんですけどすぐ買ってもらえんくて(笑) でも忘れた頃に、そこで話したバイヤーの方にから「ありませんか?」って問い合わせがあって。その当時売り先なくて有り余っているから出せるよーみたいな(笑)。最初はそんな感じで販路を作っていきましたね。

取材班

商談会という手があるのですね! 知らなかったです! 商談会や販路の開拓で意識した点などありますか?

伏田さん

販路の作り方って、契約先とか色々あるけれども,要は定期的に安定的に買ってくれる会社を何社か押さえます、あと余った時だけ出せる会社も押さえることを意識してますかね。市場とかもそうだけど。販売先の考え方はやりながらくみ取っていき覚えましたね。
あと、できないかもって怖気つくよりできますって強くいうことだと思います。

取材班

他に実際に有機を始めてわかったことはありますか?

伏田さん

有機農業のやっている生産者って設備が脆弱やってわかったことですね。設備がちゃんとしてないから気候変動の影響を思いっきり受ける。それがわかったので設備投資をしまくって金をかけていますね。今も投資しています。そのおかげで安定供給できている。有機農産物を安定供給できないこれは虫とか病気のせいじゃなく、単に設備の問題やった。

取材班

設備費用の重要性などが分かったのですね。ためになります。

取材班

先ほど安定供給と言葉がありましたが、ふしちゃんファームでは「高品質・適正価格・安定供給」を掲げていますよね。どうして適正価格にこだわるのですか? 需要が高まる中で、価格を上げる事も出来るのに。

伏田さん

有機農産物の適正価格って正直わからないですよね。ほしい人は高くても買うわけですし。でもその需要ってもう別の企業に参入されているんですよ。だからどこに向けて売るかってなった時に、そこに向けた適正価格で売る必要があるなと。だって直売所で小松菜500円売っていても買わんやろ? だから適正価格で売っていることを強調していますね。

取材班

なるほど! 私たち消費者に向けた適正価格を考えてくれてたんですね!

取材班

ふしちゃんファームがどのように確立していったか分かりました。では今後のふしちゃんファームの展望や今後やりたいことなどありますか?

伏田さん

僕は55歳で引退するって公言してるんですよ。あと12年後。そのあとドイツで農業法人を作りたいって考えていますね。そしたらふしちゃんファームは売却します。
その前に、もう少しずつ規模拡大することと従業員のマネジメント力を向上させたいですね。一気に規模拡大させようとすると色々支障をきたすので。

取材班

ありがとうございます。12年後ふしちゃんファームがどんな発展をするか楽しみです!

取材班

最後にワニナルプロジェクトでは、「農業×クリエイティブ」をキーワードに農業を盛り上げていこうと考えています。そこで伏田さんはクリエイティブと聞いてどのようなイメージを持ちますか?

伏田さん

わからん、チャラそうとかですかね。でも会社を新しく作ることがクリエイティブだと思いますかね。明るくなるよね社会が。

取材班

今回のインタビューで、伏田さん自身がクリエイティブだなって感じました!

お忙しい中インタビューに答えていただきありがとうございました! 伏田さんの話が面白くて笑いっぱなしのインタビューでした!

ファームプロダクツファイル

①作っている代表作物

●小松菜

●水菜

●ほうれん草

●コリアンダー

●ロメインレタス

●リーフレタス

●イチゴ

有機イチゴ

②作り方

・完全施設栽培 

・植物+魚などをブレンドした堆肥を用いる! 

③こだわり

有機栽培!
自分が辛いことはほかの社員も辛いと思うから、働き方も残業なしでスタッフが働きやすい環境にしている。

④これから農業を始める若者へ一言

一回お金とかすべて失った状態で、どう生きていくか考えると強くなれるよ。
GAPはとるべき。とれるから。

この記事を書いた人

吉成 香貫花 YOSHINARI KANUKA

茨城県内の大学に通う大学生。祖父が作ってくれた農作物に感動し、「農家のためにできることは?」の答えを求め農学部へ。学びを深める中で、「実際に就農している方の声を聞きたい」と思っていたところ青木と出会い、「ワニナルプロジェクト取材班」に参加する。農業を始めたいけど勇気が出ない。そんな方を後押しできる記事を作りたいと意気込む。