2. 茨城県つくば市上郷「石田農園」

石田真也さん(有機ベビーリーフ農家)が心に抱く農業の新たな可能性

有機農業ってなんだろう?最近よく聞くけれど実はあまりよくわからないこの言葉。つくば市で有機農業を開拓してこられた石田農園さんに、有機農業についてのお話や農業にかける想いを聞いてきました! (聞き手/取材班・横井 沙衣子)

人物紹介

石田いしだ真也しんやさん(石田農園経営者)

代々続く農家の家に生まれる。15年間務めた自動車会社を辞め2003年に就農する。2006年に父親が亡くなり、残してくれた有機農業を受け継ぐ。その後、「なぜ有機農業が良いのか」、「父はどうしてこの作業をしていたのか」など、再び自分で学び直しながら有機農業の道を開拓してきた。「農福連携」にもいち早く取り組み、農業の新たな可能性に希望を抱いている。

※農福連携とは障がい者等が農業分野で活躍することを通じ、自身や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組み(農林水産省HPより引用)

取材班

農家になったきっかけは何ですか。

石田さん

親父が有機農業を始めたからかな。最近病気になる人が増えてるのは、口に入る食べ物に原因があるんじゃないかと思ってサラリーマンを辞めて農家になったんだ。それまでは休みの日にトラクターの仕事手伝うくらいだったね。

取材班

当時はまだ有機農業に対する認知度はかなり低かったと思うんですけど、どのように売り出したんですか。

石田さん

最初は親父が農協の直売所で売り始めたよ。こっちから売り出すってよりは口コミでちょっとずつ広まっていったかな。本当においしいものは宣伝しなくてもリピートしてくれるからね。むしろ1回でも美味しくない野菜を出しちゃったら信用が落ちて買ってもらえなくなるから、少し手間がかかっても土作りにはこだわっているよ。

取材班

農家は信用が大切なんですね。石田さんは今まで大失敗したことはないんですか。

石田さん

いつも失敗ばかりだよ。親父が葉たばこを作っていた当時は、国から作物と農薬が指定されていて化学肥料を使うのが当たり前だったから、有機なんて言葉もなかったんだ。土作りの情報もないから毎年手探りでやっていたけど、何年も続けていくと土ができてきて栄養をいっぱい吸収したうまい野菜ができるようになってきたんだ。と言っても野菜作りってのはその時の環境や作物の状態で出来が変わってくるから今でも失敗はつきものだね。

取材班

今でも試行錯誤されてるんですね。ご実家を継ぐときに大変だったことは何ですか。

石田さん

当時は実家を継ぐ人には給付金みたいな制度が全くなかったからね、そこは大変だったかな。売れた分しか給料にならないからね。農家は手間をかけるとその分もコストになっちゃうから、有機農業でもなるべく手間がかからないようにするのは意識してるよ。例えば雑草の管理も必ずやらないといけないんだけど、うちでは除草剤とか機械は使わずに透明マルチと太陽熱で雑草の種子を死滅させてるんだ。

取材班

今は何人くらいで作業してるんですか。

石田さん

研修生1人と農福の人が来てくれてるよ。知り合いが作った農福専門の会社から何人か来て一緒に作業してるんだ。

取材班

そういう人たちはどういう経緯でこの農園に来るんですか。

石田さん

農福の人は農福専門の会社から来てるよ。いろいろなケースがあるけど、研修生は自分から連絡してくる感じだね。研修生になるなら自分でその農家に連絡していった方がいいと思うよ。

取材班

「農業やりたいです」って言って来る人はけっこう多いんですか。

石田さん

そうだね、でも「どういう農業をやりたいのか」がわからない人が多いんだ。それは、社長になりたいけどどんな会社を作るか分かりませんっていう状態と一緒だよね。作る作物によって必要な機械、施設、コスト、人手が全部違うし、新規就農の制度を利用するのに必要な書類もけっこうあるんだよ。だからうちの農園に来たら1年間畑で作業しながら、どんな農業やりたいのか考えさせて全部準備させてるんだ。研修してたら農地を貸したいって話も来るから、研修終わるころにはすぐスタートできるようになってるよ。

取材班

農家にアプローチすることで新規就農につながるんですね。研修生って給料は出るんですか。

石田さん

研修制度はいろいろあるけど、今は『農業次世代人材投資資金』と『農の雇用事業』の2種類を使う場合が多いよ。『農業次世代人材投資資金』っていう制度を使えば、新規就農に向けて準備する段階から給付金をもらえるからこっちからは出してないね。農家で1年研修すれば制度の利用資格も満たせるからね。農の雇用事業は農家の社員になり給料を出して研修期間となる制度だから、助成金から出しているよ。ただ制度は頻繁に変更されたり打ち切られたりするから、気をつけないといけないんだけどね。

取材班

石田農園では色んな人を受け入れているんですね。

石田さん

うん、色んな人が来るね。他にも普及センターや研究所の人から勉強会で話してほしいとか、圃場で試験させてほしいとか依頼が来ることもあるよ。協力するのは別にいいんだど、制度も機械も使うのは農家だからもう少し現場を訪れて農家が使いやすいものを作ってほしいって感じるな。逆にこれから農業関係で就職するなら、現場の農家とつながりがあるのは大きな強みになると思うよ。

取材班

繋がりを作ることが大切なんですね。勉強になります。

取材班

消費者の側からすると有機と言われてもよくわからないのですが、有機野菜って簡単に説明するとしたらどんな野菜ですか。

石田さん

有機野菜はただ農薬や化学肥料を使わない野菜じゃなくて、堆肥や自家製肥料といった有機物により栄養価が高くなった野菜のことなんだ。農家の役割って野菜が育ちやすい環境を整えてあげることなんだけど、一番大切なのは「土」なんだよね。有機物を入れたら微生物が増えるの。そうすると土が柔らかくなって根っこがよく生えるから野菜がいっぱい栄養を吸収できるんだ。化学肥料だけだとミネラルが足りなくて味が薄く、栄養価が低く、傷みやすい野菜になっちゃうんだよ。今の野菜は50年前の野菜に比べて栄養素が半分~10分の1しかないって言われてるのはそういうこと。

取材班

えっ! そんなに違うんですか!

石田さん

そう。だから有機農業では堆肥や肥料によって有機物を土に戻してあげるんだ。この有機物が微生物のご飯になってうま味の元になるアミノ酸を作ってくれるから、うちで作った野菜はドレッシングいらないくらい甘くて味が濃いんだよ。栄養価が高い野菜を食べれば人間もいっぱい栄養を摂れるでしょ。だからうまい野菜を食べれば健康になれるんだ。

取材班

化学肥料や農薬を使っていた畑でも有機農業ができる土に変えることはできるんですか。

石田さん

できるよ。うちの畑もずっと化学肥料・農薬を使った農業してたからね。親父のときは何も情報がなかったからうまくいくまで7〜8年かかったけど、今だったら3〜4年でできるんじゃないかな。野菜が土の中の栄養をたくさん吸収するから堆肥や肥料をたくさん入れ続けてあげないといけないけどね。有機物を入れ続けてあげたら土の免疫力が上がって、栄養素をいっぱい貯め込めるようになっていくから、毎年同じ作物を栽培しても収量は落ちないよ。

取材班

環境を良くすることが大切なんですね。

石田さん

そこは人間と同じだね。野菜は敏感だから、栄養がいっぱいあって適温のところに根っこを伸ばしていくんだよ。人間と違って病気になっても言ってくれないから、そこは農家が葉っぱの色とかを見て判断しないといけないけどね。俺は土壌医っていう資格を取って土壌診断から処方箋を考えて、施肥設計するようにしているよ。この資格は取ってよかったなと思ってるから、おすすめだね。

取材班

石田さんにとってやりがいは何ですか。

石田さん

最初はお客さんが、うちの野菜をうまいって言ってもう1回買いに来てくれることがやりがいだったな。今は農福の人がうちの農園に来て元気になっていったり、新しいことを始めるきっかけを見つけていくのを見るのがやりがいだね。施設や病院では治らなかった人が、うちの野菜を食べて一緒に作業するうちにどんどん元気になっていくんだよ。潔癖症が治った人もいれば、公務員になっちゃった人もいたよ。そういうのを見るとうれしいね。

取材班

農業を通して人生が変わるんですね! 最後に、ワニナルプロジェクトでは『農業×クリエイティブ』で新規就農や農業を盛り上げていきたいと考えています。石田さんは「クリエイティブ」って聞くとどんなイメージを持ちますか。

石田さん

農業自体に色んな可能性があるよね。病気になった人やまだ職業を決められない人も、農業を通して新しい道を見つけて活躍していくし、農業やりながらも色んな働き方があるしね。

取材班

お話を聞いていると石田さんは「人をクリエイト」してますよね。

石田さん

そうかもしれないね。人を大切にしてると人が集まり、情報が集まり、色んな可能性が生まれてくるよね。

今日は貴重なお話しを聞かせて下さりありがとうございました。お土産にベビーリーフをたくさんいただきました!

ファームプロダクツファイル

①作っている代表作物

●ベビーリーフ

ビニールハウスで栽培しているのでその場で摘んで味見できます! 今まで私がおいしいと思ってたサラダの味は、ドレッシングの味だった!?本来の甘味とうま味を感じられます。

●ニンジン

生で食べても甘いニンジン。ニンジン嫌いの克服に効果あり!

●タマネギ

有機タマネギの最大の特徴は辛くないこと! 水にさらさず生で食べても甘いタマネギ。炒めれば調味料がいらないくらい良い味が出ます!

石田農園さんの代表作ベビーリーフ。

②作り方

●ベビーリーフ

堆肥を入れることで、微生物がアミノ酸を生成し畑で味付けがされていく。
短期間に繰り返し収穫が可能。時期が終わったらそのまま土にすき込んで残った栄養を土に返す。

●ニンジン

畝を高くすることで根っこが下に下がっていく。土が非常に柔らかく、力を入れなくても棒をすっと差し込むことができるほど。
根っこが下に伸びるため、土壌下層の肥料が不足し失敗することが多い。上部だけでなく下の方まで肥料を入れるよう気を付けている。

ニンジンはスティックにして生で食べるのがオススメ。

③その他

●雑草防除は太陽熱!

透明マルチを敷いて1か月放置。これだけで土中の雑草の種が死滅し雑草がほとんど生えてこなくなる。

●堆肥は発酵が大切!

乗馬クラブからもらった馬糞を畑の一角に野積みにしておく。きちんと発酵させれば甘い香りになり、温度は60℃ほどまで上がる。
これをもみ殻と一緒に土壌に入れる。堆肥ともみ殻が微生物のご飯となる。

一角に野積みされている馬糞。

④石田さんの思い描く新たな農業の形

最近、ストレスで体調を崩す人や休職する人が増えてきた。特にIT系で働いていて病んでしまう人が多い。そんな人たちが石田農園に来て、栄養たっぷりの野菜を食べ、太陽をいっぱいに浴びて作業したら絶対に元気になるはず! 病気になる前にストレスで苦しんでる人にこそ農業に触れて元気になってほしい。

石田さんの周りには自然と人が集まってくる。みんなが笑顔になれる農園です。

この記事を書いた人

横井 沙衣子 YOKOI SAEKO

茨城県内の大学に通う大学生。小学生のとき農家さんの家で食べたレタスが忘れられず、茨城で農学を学び始める。普段は原付にまたがり、田んぼや蓮田を見て癒されている。環境に優しい農業を研究しながら、「実際の農家の現状をもっと知りたい」と思い、「ワニナルプロジェクト取材班」に参加。自分たちの記事を読んで、色んな人が農業に興味を持ってもらいたいと願っている。